私たちはなぜ科学を学ぶのか
あなたは、文系ですか? 理系ですか?
日本の教育問題の中で、最近、理数系離れが進んでいるとよく話題になります。昔は、科学といえば、日本の経済成長を支えた立役者であり、技術を磨いて世界一になろうという、夢を与えてくれる存在でした。しかし、成長が頭打ちになり、技術による 成長がなくても豊かになった現在、科学の与えてくれる夢というものがよく分からない存在となりました。また、日本の社会システムを運営しているのは文系であり、生涯賃金も理系と文系ではっきりとした格差が示されてしまった今、ますます理科離れが進むこととなりました。今の高校生は、理科の勉強がつまらないといいます。理科は難しい。勉強しても分からない。結果として、「理科が分からないから文系に進む」という流れも生まれてきています。ここでは、文系と理系、どちらがいいのか、といった議論はするつもりはありません。しかし、理系の知識があるかないかで、今後歩んでいく人生で、物事の判断に大きな影響を及ぼすのです。もし、科学を知っていれば、人生の要所要所で、より多くの理解が得られる可能性があるのです。それは、人生の進路を決める際にも役に立つし、何より、自分の生活を守り、より豊かな生活を送る手助けにもなります。ここでは、科学を知っていると、どういういいことがあるかについて、お話をしましょう。
その情報、正しいですか
世の中には様々な情報が氾濫しています。テレビからの情報、新聞からの情報、そして、最近これにインターネットからの情報が加わりました。テレビは、気軽に分かりやすい情報を得られる手段として、私たちの生活に深く入り込んでいます。インターネットも、自分の好きな時間に好きな場所で情報を入手できるので、大変便利です。 ところで、テレビから流れてくる情報って、正しいと思いますか? 大部分は正しいといえます。ニュースや、ドキュメンタリー番組、情報番組などは、事実を伝えていると思います。事実と異なれば、あとあと、批判を受けることとなります。「正しい情報」を流しているといえます。(前出のエッセイ「正しさ」とはも参照) しかし、テレビの世界は大変歪んだ世界です。 テレビは、現在、無料で見ることができます。(NHK受信料がありますがテレビを設置して電源を入れれば見れます) それは、番組の合間にCM(コマーシャル)といわれている短い映像をはさむことにより、スポンサー企業から広告料が得られるからです。もし、スポンサー企業がお金を払わないということになれば、その番組は続けることができなくなってしまいます。そのため、スポンサー企業の不利益になることは言えません。 また、スポンサー企業を満足させるためには、たくさんの人に見てもらわなければなりません。そのため、大多数の人に受け入れられる内容を流します。テレビは、みんなが興味を持ちそうな事を取り上げるのです。みんなが関心を持たないけど、重要な話は流れないかもしれません。みんなが関心を持つけど、あまり重要ではないことが流され、それに注目することでもっと重要な大きな問題が忘れ去られることもあるかもしれません。 そして、テレビを作る人たちは、番組作りの専門家なのですが、それ以外の知識を持ち合わせていません。というのは、テレビ業界で働く人たちは通常、大学卒業時に採用され、業界内で腕を磨きます。他の業界から人材が流入してくることがありません。そのため、視野の狭い集団なのです。そういう人たちが、番組の放送内容を決め、情報の生殺与奪の権限を握っています。番組で、専門家の意見が必要になったとするでしょう。どの専門家に聞きに行くかは彼らが決めます。その道の専門家が良心を持って強調したかった部分があったとしても、彼らが番組構成上必要ないと判断すればカットされます。(これは、新聞記者や雑誌編集者にも言えることです)
「マイナスイオン」ブーム
このことをもう少し分かりやすいように、ケーススタディで話しましょう。 3年位前から日本では「マイナスイオン」がブームになりました。「マイナスイオン」とは、除菌効果や、体の健康を保つ効果があり、「健康ブーム」の日本では大受けしました。「マイナスイオン」は、科学的にその効果が証明されており、「マイナスイオン」発生装置を組み込んだ商品は健康に良いと、宣伝されました。当時、エアコンや空気清浄機の市場は飽和しており、「マイナスイオン」という付加価値は新たな市場の起爆剤となりました。 しかし、実際のところ「マイナスイオン」ってなんでしょうか。
科学はしばしば権威付けに利用される。
「マイナスイオン」の科学的検証については、こちらに詳しいサイトがあります。 (参考リンク→市民のための環境学ガイド > 高校の先生のために書いたマイナスイオン) 「マイナスイオン」はそれを浴びることによって、確かに体に良い効果をもたらしたのかもしれません。しかし、その効果は、科学的に実証されたものではなく、単に、体に良さそうな実験をしたことによる心理的効果によるものなのかもしれません。「マイナスイオン理論」とは、数ある論文や実験データの中から都合のいい部分だけを引っ張ってきて、切って張ってつなげて体系立てられた、空想の理論なのです。しかし、それがあまりにもよく出来ていたため、多くの人(中には科学者までも)を惑わしました。科学者はこの理論に支持を打ち出しました。科学をよく知らない者にとって、科学による裏づけは、強ち難い権威となります。「マイナスイオン」は、大企業をも巻き込んだ一大ブームにまでなりました。(もしかしたら、「マイナスイオン」を宣伝することで収入を得る科学者が、「マイナスイオン」商品を売りたい企業と結託して、権威付けを行ったのかもしれません。) これら一連の騒動の影でテレビ局の番組制作者はプロパガンダ布教に一役を買いました。テレビ局は情報番組で「マイナスイオン」特集を組み、一般市民に "科学的に”間違った知識を植え付けました。「マイナスイオン」が売れるようになれば利益を得る企業がスポンサーになっていたのかもしれません。しかし、それよりも何よりも、番組制作者には専門家を疑うだけの知識がないため、専門家にまんまと「踊らされた」ともいえるのです。マスコミが、流行モノの特集を組む時、必ず専門家の助言を仰ぎます。専門家の口を借りることで、権威付けをし、情報の信憑性を高めるのです。これ自体は、仕方ないと思います。しかし、その専門家の選定基準が、「有名であること」や、「今著書がよく売れている作者であること」といった方式であるため、専門家はやり方次第で自分の元にマスコミを引き寄せることが可能なのです。例えば、ある一定の大衆を扇動し、自分に対する信用を勝ち得たとします。その上で著書を出版すれば小さなブームにすることができます。そこにきて、うまく、マスコミの注目を集めることができれば、めでたく取材記者を引き寄せることができます。一度マスコミに登場すればあとは簡単、記事が記者を呼んで一気に発言力を高めることができます。 実際に、フ○テレビが情報番組で「マイナスイオン」について特集し、科学者の権威の手を借りたのですが、その科学的矛盾が理解できないあまり、科学的に支離滅裂であるにもかかわらず、科学者の言う内容を鵜呑みにした内容の番組が放送されてしまっています。 (参考リンク→市民のための環境学ガイド > マイナスイオンに関するもの) テレビが特集したことにより「マイナスイオン」ブームはさらに勢いづきました。街中には「マイナスイオン」グッズが溢れ、マイナスイオンブレスレットやマイナスイオンバーまで登場しました。しかし、それらの健康効果はほぼ無いに等しく、科学的迷信にお金を払っていたことになります。(まあ、心理的偽薬効果もあっただろうし、満足も得られたのだろうから、それはそれでいいんですけどね) ここで、もし科学的知識を持ち合わせていたならば、オカルト科学者やテレビの言う説明に、少なくとも科学的に矛盾していることだけは感じ取れたのではないでしょうか。(でもやっぱり、「マイナスイオン理論」は結構よくできているので、かなりの専門家じゃないと気づけないかもしれない・・・) (ちょっと脱線しますが、最近、「酸素浴」なるものが流行っているようです。濃度の高い酸素を吸入することでリフレッシュ効果があるんだそうです。酸素エアコンや酸素チャージャー、酸素バーまで登場しました。でも、化学者から一言。酸素には私たちの生命を維持する大切な役割がありますが、同時に老化を促す活性酸素も生成するのです。酸素吸入は医療現場では瀕死の生命を維持する意味がありますが、日常生活で使うにあたっては老化を早めるリスクをあなた自身がどう考えるかで、使用を判断する必要があります。)
「省電王」事件
こちらは、もっと重大な結果をもたらす可能性のある話です。 (参考リンク→節電器被害者支援ページ) 「省電王」とは、節電器です。電気メーターとコンセントの間に取り付けることにより、電気の使用量を減らすことができ、ひいては電気代を節約できるという魔法の箱です。1993年ごろから、中小企業や個人宅を中心に売込みを掛けました。「環境にも優しい」などといった謳い文句で、何とエコマーク認定も受けました。(どうやって認定機関を誤魔化したのだろう。ちょっと気になる 当然、今は認定剥奪) この「省電王」という代物、中身は単なる変圧器です。100Vで供給されている電気を95V程度に落とすことで、流れる電気量を減らし、電気代が節約できるというのです。100万円以上しますが、電気代が半分にまで減るのですぐに元が取れるというのです。 しかし、ここでもし理科の物理の知識や、算数の知識があって電卓をちょっと自分でたたいてみる習慣があれば、おかしいとすぐに気づくはずです。まず、電気代はW(ワット=電力)で計算されます。W=VA(ボルトxアンペア=電圧x電流)なので、電圧が5パーセントカットされるだけで電力が果たして半分になるのだろうか、と疑問に思うはずです。 仮に電圧と共に電流も5パーセント減ったとしても、0.95x0.95=0.9025、つまり、10パーセントしか減らない。明らかにおかしいと気づくはずです。 さらに計算してみます。例えば、月々の電気代が3万円だとしましょう。3万円の10パーセントなら3000円の節約ですね。変圧器が100万円だとすると、元を取るのに何年ですか? 100万円÷3000円=333ヶ月、つまり、27年です。 こんなばかばかしい話、ありますか? ちょっと算数や理科の知識を持っていれば、たったこれだけのことですが、知らなければセールスマンの話を信じてしまう可能性があるのです。
科学知識は詐欺から身を守る防御手段
このように、世の中には、科学知識に乏しい一般市民を狙い、難しい科学用語を連発することで圧倒し、効果の無い又は、あまり大きな効果の無い商品を高い値段でさも効果があるかのように売る悪徳商法が横行しているのです。もし、あなたが文系で、大学受験に理科が必要ない高校生であっても、理科をしっかり学んでおくことは、将来、このような偽科学に出会ったときに正しい判断を下せる可能性につながるのです。 ちょうど昨日の夕刊に「いかに科学を知らない人を科学用語で圧倒するか」を示す良い例になる新聞広告を見つけました。突込みどころ満載です。ひとつひとつ、解説してみましょう。
水道水を、健康に良い水に変える「酸化還元浄水器」破格の28,800円。
→酸化還元浄水器の表現自体が意味不明。本来、酸化と還元は全く逆の現象を指す。分子Aが他の分子Bから電子を奪うことを酸化、分子Bが分子Aに電子を渡すことを還元という。水を単純に流すだけの浄水器が酸化と還元を同時に行うことなどありえない。(多段階の化学工業プロセスであれば別)よって、酸化還元浄水器という名前はおかしい。化学をよく知らない人にとってはなんかすごいことに見えるのだろう。
酸化還元電位が低い水とは
→極めて化学的におかしな表現である。酸化とは電子を奪うこと。還元とは奪われること。電子を奪えば確かに奪う側のエネルギーが奪われる側に移動するかもしれない。電子が奪われれば、エネルギーをもらうかもしれない。ただ、これは現象の一面を無理やり強調した感がある。酸化とはエネルギーを放出、還元とは蓄えること。
酸化還元電位が高い水は抗酸化物質の働きを弱めて、活性酸素を多く発生させます。
→抗酸化物質としてビタミンCやビタミンEが知られている。たしかに、酸化還元電位の高い水を飲みつづければこれら抗酸化物質の働きを弱めるほど体内の酸化還元電位が上がるかもしれない。しかし、体内で酸化還元電位の測定をすることは困難であり、根拠となる実験結果は本当にあるのだろうか。
逆に電位の低い水(還元水)はエネルギーを蓄える作用があります。浸透圧が高くなって食物の養分が体内に吸収されやすくなります。
→酸化還元電位が低いことと浸透圧は無関係。エネルギーを蓄えるという表現も意味不明。食物の養分の濃度が上がれば確かに浸透圧が高くなるが、浸透圧が高くなるから吸収されやすくなるのではない。無関係。
活性水とは
→クラスターとは理論上の仮説である。実際に測定できる代物ではないので、当然根拠となる実験データは存在しない。水の分子はクラスター状につながっており、クラスターが大きいと分子間に有害物質が取り込まれやすくなります。逆に小さいと入り込む余地が無く、水は活性化された状態に。この活性水は体への吸収率が良くなります。 (参考リンク→水商売ウォッチング > 水のクラスター −伝搬する誤解−) (参考リンク→水商売ウォッチング > アルカリイオン水・還元水・強電解水) もうこのくらいでいいでしょう。このように、すごそうな科学用語を連発することで、科学を知らない人にすごいと思わせることが目的なのです。科学的根拠も、論理性も、めちゃくちゃです。 (ちなみに、さらに脱線しますが、残留塩素検査薬が付いているところがウケます。なぜなら、塩素除去能がこの浄水器で唯一科学的にかつ簡単に確認できる効果だからです。これで、酸化還元浄水器の効果をお客も納得します。)
参考サイト
|
|
Copyright 2003 Takehiro Kumata 無断転載を禁じます
idea Birthday: Sep 18 2003
First Publication: Sep 19 2003 |